読書

書評:A Problem from Hell: America and the Age of Genocide (2002)

Dr.ピアニストとして私は「音楽は共感力を高める。境遇や文化背景が違っても人間みな兄弟―時空を共にした運命共同体—と思い出させるのが音楽家の役割だ」と主張して来ました。私は今こそ、自分の言葉の真実性を試してみるべきだと思ったのです。私に出来ることで、本当にウイグル系日本人のお友達の役に立つことは何か。音楽は、そして私の様な音楽家は、本当に社会にインパクトを与えられるのか。演奏会が無い今だからこそできる熟考と実験を、自分に課してみようと思ったのです。

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洒脱日記223:日本の冬の寒さを描く。

アメリカは大抵の家がセントラルヒーティングなので、日本の冬の様な屋内の寒さは滅多にありません。でも南カリフォルニアでは今、日照時と朝晩の寒暖の差が激しい。夜眠る時は割と暖くて、環境と電気代に優しくACを切って眠ってしまって、朝が大変!

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洒脱日記211:寒い!読書の秋。

今読んでいるのは去年出版されたSounds Like Titanic(タイタニックに聞こえる)と言うタイトルの回想録。プロのヴァイオリニストの夢を追って田舎から出てきた女の子。NYで競争に圧倒されます。夢破れて音楽専攻を諦めた大学二年生の彼女がどんでん返しでオーディション無しの面接のみで雇われて「口パク」ヴァイオリニストとしてツアーする事に。

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洒脱日記158:書評「Little Fires Everywhere(リトルファイアー:彼女たちの秘密)」

このブログではセレステ・イングの2017年のベストセラー、まだ邦訳が出版されていない「Little Fires Everywhere」を書評します。私はこの原本を基にしたテレビシリーズは観ていませんが、テレビシリーズの批評、さらに最近話題になった韓国映画「パラサイト」との比較検討などもします。

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書評:路上のソリスト

スティーヴロペズ著、入江真佐子翻訳、路上のソリスト(2009) 私は原文で読みました。 スティーブロペズはロサンジェルスタイムズのコラムニストです。取材中に2本しか弦の無いヴァイオリンを奏でるホームレス男性を見つけ、コラムに書きます。反響の大きさに何度もこのホームレス男性ーナサニエルと言う分裂症を患う黒人男性ーについて書いているうちに、二人は友情を培います。そしてこの本が出版され、ついには映画にまでなります。 この本の背景にはアメリカの貧富の差とその結果ともいえるホームレスが大きな社会問題だということがあります。さらに、アメリカで人口2位のロサンジェルスの都市中心部から歩いていける距離にホームレス中心部であるスキッドロウがあり、そこを中心にロサンジェルスのホームレス人口がアメリカの中でも抜きんでていることもあります。ホームレス問題の背景には、退役軍人・精神疾患・不動産の値段高騰・健康保険の不完備など、様々な問題が複雑に絡み合います。2019年LA行政区画内のホームレス人口は5万8千を超え、前年より12~16%の増量となっています。 この本で私が一番感心したのは、著者が複雑な問題を簡略化せずに、正直に向き合おうをしている姿勢です。例えば著者とナサニエルは友情を培っていくのですが、この友情は一筋縄でいくものではもちろんありません。ナサニエルはその精神疾患もあって、普通の会話や論理が通じない事も多く、著者はしばしイラついたり、切れたりします。著者のコネやコラムの反響を利用して、ナサニエルのためにホームレス専用のアパートを優先的に融通してもらってもナサニエルはそこに入りたがりません。。そういう一進一退を繰り返しながら、著者は自分がやっていることの意義や効果について常に自問自答を続けます。まだ幼い子供がいる自分の家族との時間を犠牲にしてやるべきことか?誰のためにやっているのか? 著者の正直さに私が一番感動した場面は24章目にあります。このコラムの反響もあり、行政がホームレス問題に注目を始めます。Midnight Missionと言う有名なホームレスシェルターで開かれたイベントでは、何百万ドルと言う予算を使ったホームレス解決案が発表されます。ニュース報道陣が集まる大きな会場で、著者は色々な人に握手を求められ、コラムの御礼を言われます。その中で一人の参加者が著者を詰問します。「ホームレスを利用していくら儲けているんだ?」著者は怒りに震えながら、自分の怒りの背景にはこの糾弾者の言い分に正当性が在る事を認めざるを得ないからだ、と書きます。自分はナサニエルとの個人的な友情までをもジャーナリストとして売り物にしているのか?売り物にせずにナサニエルについて書くことは可能なのか?自分の利益になろうがなるまいが、ナサニエルの事を書くことで公共やナサニエル自身のために少しでもなるのであれば、自分の書き物の倫理的正当化は可能なのではないのか? 他の書き手も私と同じように悩んでいるんだ…私はこの文章を読んで、胸が詰まると同時に安心もしました。著者の勇気に感謝しています。 原文の副題は ”A Lost Dream, an Unlikely Friendship, and the Redemptive Power of Music(失われた夢、珍しい友情、そして音楽による贖罪)”です。この本で私が気に入らない全てがこの「Redemptive(贖罪)」と言葉に反映できるのではないか。本文で著者は、ナサニエルが無心に音楽を奏で続ける様子を描写しながら、自分よりもこのホームレス音楽家の方が幸せなのではないか、と自問します。社会の常識や価値観や同調圧力に踊らされて、情熱を感じることも無く一生を終える「健常者」よりも、こうして正直に自分の情熱を全うするナサニエルの方が人間的なのではないか…しかし、副題に「贖罪」と言う言葉を入れてしまうことで、こういう答えの出ない問いかけが全て整理整頓されて無くなってしまう。そして残念な事に、この本のハリウッド映画化はさらにこの傾向を助長しています。 この映画の売り上げは制作費用の半分にとどまりました。成功の代償には、すでに受け入れられている視点・物語に、自分の主張をはめ込まざるを得なくなることが在るのかも知れません。でも、そこで生じてしまうウソが、最終的に失敗に繋がってしまう。ロペズが最終的にこの物語で手にした物はなんなのか?この話しはホームレスの実態解明にどれだけ役立ち、実際の問題解決の役にたったのか?

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