July 2010

ステファニー・ブライスとドーン・アップショー回想

タングルウッドの歌のプログラムはとても充実していて、世界的な歌手が沢山教えたり、演奏したりしに来てくれます。ステファニー・ブライス(Stephanie Blyth)は世界的なオペラ歌手、そしてドーン・アップシャ―(Dawn Upshaw)は現代曲など幅広いレパートリーをこなすで有名な歌手です。この二人の言った事で忘れたくない事を書きとめておこうと思いました。 昨日の公開レッスンでステファニー・ブライスはかなり厳しかった。 一人とてもひょうきんなソプラノが居ます。いつも場を湧かせてくれる、とても面白い子で、ちょっと太めだけどお茶目なキャラです。歌もとても上手で、それに演技力も抜群で、自分で可愛い振り付けをしてそれを演じきるので、見ていても面白い。ところが、ステファニー・ブライスは「自分の解釈の意図がはっきりしているのは素晴らしいけれど、心から歌えていない。表面的な演技に逃げるのは辞めなさい。見え透いたブリっこはすぐにばれますよ。」と、その子が泣くんじゃないか、と心配するほどしつこく何度も「自然に、誠実に、正直に」と、やらせ直させました。キャラクターを演じて、「泣いてください」「笑って下さい」とシグナルをはっきり出すと、聴衆としてはどう解釈したらいいのか、どう反応したら良いのか考えずに済むから、ある意味楽です。でもそれでは心に残る演技は出来ないんだ、と言う事をステファニー・ブライスは言いたかったんだと思います。安易なキャラを演じる事で逃げるな。その子はちょっと太っているから、多分ひょうきんになる事で、自分の容姿から注目を反らせようと言う無意識の意図が在ったと思います。現に、まっすぐ立って歌い始めたら、やはりその子の見た目が動いている時より視覚的には目立ちました。でも同時に、その子の声は声自体がとても、とても奇麗で、その奇麗さが初めてはっきり際立って聞こえた、と言う事も在ります。難しい、そして厳しいことだなあ、と思います。  もう一つ、ドーン・アップショーがこれは一週間くらい前に言った事で忘れたくなかった事。彼女は60、70年代に青春を過ごした世代なのですが、こんな事を言っていました。「私はクラシックには随分遅く入って来ました。私が最初に触れ、感動した音楽はビートルズや、ボブ・ディランと言った、はっきりとした社会的メッセージを持って、世界を変えようと言う意図をもった歌の数々でした。そう言う歌はメッセージをより効果的に伝えるために音楽に載せてあります。そう言う歌から、音楽一般、そして最終的にクラシックにたどり着いた今でも、私は歌に対する姿勢は同じです。どんな歌でも、この歌で世界を変えたい、と思って歌います。」楽器奏者の私には考えた事もない様な、音楽に対する考え方でしたが、彼女の真摯な気持ちはよく伝わって来ました。

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快い疲れ

今日から私のタングルウッドのスケジュールは満載です。 今日は来週月曜日のオケのコンサートの「町人貴族」の最初のリハーサルが在りました。ピアノ・パートがかなり大きく、コンチェルトの様なセクションも在ります。 その後、ジュリアードのピアノの教授、ジョーセフ・キャラクスタインの公開レッスンでシューマンの「子供の情景」を弾きました。上手く弾けたし、自分では思いつかなかった視点を提示してもらえて、良かったです。 その後二人の歌い手とリハーサル。練習室がうだるように暑く、頭から水を被ってリハーサルをしました。 最後にステファニー・ブライスの公開レッスンでブリテンの歌曲の伴奏をしました。ステファニー・ブライスは知れば知るほど素晴らしい女性、そして音楽家です。「この世は表面的な物事で溢れている。深く掘り下げなさい。自分に正直でありなさい。強く自分を持ちなさい」と最後に十分くらいスピーチをしてくれました。感動して涙が出ました。

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タングルウッドの休日

タングルウッドでは正式な休日は2ヶ月間で三日だけあります。この日だけはクラスもリハーサルも講義も演奏会も無く、オフィスも図書室も午前中のみ開いていて、研修生は自由行動が許されます。その他の日はたまたま自分の乗るアンサンブルのリハーサルが一つも無かったりとか、一人だけぽっかり何も無い日が在る事はありますが、でもタングルウッドの研修生になるにあたって「タングルウッドの初日から最終日までは、タングルウッドの許可無しに遠出をすることはしない」と言う契約書にサインをさせられています。急にリハーサルやレッスンなどが入るかも知れないからです。ボストンや、アルバニーと言った、車で1、2時間の都市に遊び、あるいは用事を片付けに出て行く人もいれば、一日何もしない、と決めて、テレビを見ている人もいます。 私は今までの比較的なスケジュールが嘘の様に明日から忙しくなるので、今日はそれに備えて選択、部屋の整理、楽譜の整頓、そして練習をしました。午後からはタングルウッド近郊のお金持ちのお家に呼ばれてきました。タングルウッドの主に声楽家とピアニストの研修生が実に40人ほど呼ばれた、盛大なパーティーでした。裏庭がそのまま湖につながる、素晴らしい豪邸で、私たちはその家にあった浮輪や、ボートや、カヤックや、色々持ち出して、湖の中で遊び、疲れるとそのお家の人々が用意して下さったおやつや夕飯をビールやワインと頂いて、また水に入る、と言う繰り返しをしました。 明日からは怒涛の様なスケジュールです。 8;30 バスでタングルウッドへ。練習。 10:00 オーケストラのリハーサル(ストラウス「町人貴族」組曲) 12;30 昼食、練習。 1;30 キャリクスタインのピアノ公開レッスンでシューマンの「子供の情景」を演奏。 3:30 練習 5;00 寮に戻る。食事、練習。 8;00 ステファニー・ブライスの公開レッスン(ブリテンの「Batter My Heart」 を演奏)

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開会式

今日はタングルウッドの正式な開会式が在りました。 私たち研修生のほとんどは6月19日からここに来て、すでに講義を受けたり、リハーサルを開始していますが、演奏会はこれから本格的に始まります。開会式はまず、タングルウッド・ミュージック・センター(タングルウッド音楽祭の中でも特に研修生たちの活動を司るパート)の総監督、エレン・ハインスタイン(この人も昔タングルウッドの作曲の研修生だったそうです)の開会の言葉が在り、それから教授代表でアメリカの代表的な作曲家でタングルウッドでは作曲科主任のジョン・ハ―ビソンのスピーチが在りました。「自分のエゴの為、成功の為に音楽をするのでは無く、文明を讃えるため、人間性を讃えるため、そして音楽を愛する心の為に音楽をやって行こう!」と言うものでした。それから、先週の土曜日に公開レッスンをしてくれた過去のタングルウッド研修生で今は世界的に有名なメゾ・ソプラノ、ステファニー・ブライスと、ピアノ科の主任、アラン・スミスがコープランド(彼はタングルウッド創立の1940年から25年間タングルウッドの作曲の主任でした)のエミリー・ディキンソンの詩による歌曲を演奏しました。それから、今年急に背中の手術の為タングルウッドでの演奏を全てキャンセルしたジェームス・レヴァインに代わって、サンフランシスコ交響楽団の常任指揮者であるマイケル・ティルソン・トーマス(この人タングルウッドの研修生としてキャリアのスタートを切りました。彼はこの夏、ジェームス・レヴァインの代役を務めて奥の演奏会を振ります。)がスピーチをしました。「音楽が素晴らしいのは、虐げられがちな人々でも、公平に自己表現の場が与えられ、偏見の無い実力社会であることだ。だから過去に置いて、ユダヤ人が多かったし、今日私はこの世界における、女性進出、アジア人進出を素晴らしい事だと思っている。タングルウッド創立者であるクーセヴィツキ―もロシア系ユダヤ人としては当時考えられなかったほどの成功を指揮者として、築いた。そしてだから、後世の虐げられた人たちに自己表現を許す場として、音楽業界の火を燃やし続けなければいけない!」と言う、とても力のこもったスピーチでした。 最後にランダル・トンプソンがタングルウッドの委嘱で作曲した「アレルヤ」と言う合唱曲を伝統を守って毎年開会式ではその年の研修生が合唱して終わりました。とても美しい曲で、去年もそうでしたが、皆と声を合わせて歌っていると、本当におごそかな神聖な気持ちになって、「がんばろう!」と改めて思いました。

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独立記念日

今日はアメリカ独立記念日でした。この日の典型的なアメリカの過ごし方はバーベキューと花火です。去年は独立記念日はタングルウッドで演奏会を弾いたので、そのままキャンパスでタングルウッドの花火を見ました。今年は演奏会も無かったし、花火はスキップして、いつもよりがらんとしている寮でバーベキューを少人数の友達とゆっくり食べて、ゆっくりお散歩をしてゆっくり練習をしました。カラリと晴れているけれど、日の光のとても強い、気持ちいい真夏の日々が続きます。 今日の研修生の演奏会にはアメリカの代表的な作曲家、エリオット・カーターが2008年に作曲した6人の打楽器奏者の為の"Tintinnabulation"の演奏を聴きに来ていました。カーターは1908年生まれですから今年で102歳!そしてこの曲は100歳の時に書いたのです!クライマックスでは打楽器奏者の一人が大きな木箱を餅つきの杵の様なもので力任せに叩く、と言う所も在るとてもエネルギッシュな曲でした。そしてカーターは、去年は車いすだったのですが、今年は去年より元気そうで、聴衆の拍手に立ちあがって手を振って応えていました。でも、さすがに耳は遠く成っているようで、私は意図せずしてカーター氏の丁度二列前に座っていたのですが、凄くうるさかった!周りがシーンとして聴いている中で突然遠慮なく「ゲホー、グガホ~」と声帯を震わせた咳をしたり、演奏者の準備が整い、演奏が始まろうとするその緊張の一瞬に突然「この曲のスコアは持っている」と、となりの人に聴いてみたり。。。 今年のタングルウッドは70周年記念と言う事で、今までタングルウッドで教えた事のある作曲家の曲を中心にプログラムが組まれています。昨日のプログラムでも武満徹、エリオット・カーター、オリヴィエ・メシアン、ポール・ヒンデミット、が過去のタングルウッドの作曲の先生としてその曲が演奏されました。凄い!

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