July 2011

冷たい手で弾くゴールドベルグ

いまだに変わっていなければ、公立学校の夏休みは毎年7月21日に始まるはずだと記憶しています。 こんなにはっきり記憶しているのは、子供ながらに待ち遠しかったからでしょう。 しかしまだまだその日まで2週間もあるというのに、日本は30度を越しているそうですね。 昨夜日本に電話したら、暑さの悲鳴が聞こえてきました。 私が今居るイースト・ハンプトンは避暑地と言うこともあり、現地入りした先月は肌寒い日もある程でしたが、 7月に入ってようやく入道雲が見られ、夏らしい気候になってきました。 それでも30度には到底手が届かず、湿度も低く、日陰の風が気持ちいいです。 それなのになぜか、冷房がガンガンかかっている建物があるのです! 先週月曜日にゴールドベルグの抜粋を演奏したAvram Hallが寒かった! 私はゴールドベルグなのに、トリの前に持ってこられ、待ち時間が長く、 出来るだけ温まっていようと待ち時間はなるたけ日向で過ごしていたにも関わらず、 ステージに出るまでには手がギンギンに凍えていました。 (これだけ弾きこんだ曲でよかった~。ちょっと不安な曲だったらこんなに冷たい手で弾けないよ) と思ったのもつかの間、ゆっくりで技巧的には簡単なアリアでさえも音を引っ掛けてしまったくらい 指が言うことを利かない!かじかんでしまっているのです。 抜粋だったため、壇上で急遽、弾くはずだった速い変奏曲を遅い物に変えたりして何とかしのぎましたが、 それでも不本意なミスを沢山してしまい、ちょっと残念で、悲しく、そして申し訳なかった。 曲にも、聴衆にも、ピアノフェストの主催者や、募金者、ボランティアー達にも、謝りたい気持ちでした。 こんなに入れ込んだ曲なのに。。。 ところが、お客さんたちの反応が私には信じがたいほど良かったのです。 「涙が出てしまいました」 「私は今までゴールドベルグは正直、退屈な曲だと思っていましたが、今日一気に考えが覆されました」 「今まで聞いた色々な人のゴールドベルグの中で一番良かった」 「本当に美しい演奏でした」 演奏者本人の評価と、聴衆の反応にギャップが出ることは良くあることです。 でも、私自身こんなに正反対だった体験はまったく初めてで、正直面食らってしまいました。 録音は一応あるのですが、怖くてそれを聞く気にもなれないほど、私にとっては不本意な演奏だったのです。 ピアノフェストの総監督でもあり、私たちの先生でもあるポール・シェンリーに謝りにいきました。 「手が凍えて、まったくコントロールが聞かなかったのです。不本意な演奏をしてしまいました。申し訳ない」 そしたら、ティベット風に私の頭を引き寄せて、自分のおでこと合わせて 「最高に美しい演奏だったよ。謝る必要なんてまったく無いんだ」 と言ってくださいました。 普段、誰とでも少し距離を置く様な人なので、余計に感動しました。 いまだに信じられないけれど、でもとりあえず、喜んで頂けた様で良かったです。

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Pianofest―リアリティー番組になる

ピアノフェストの卒業生で30代ロシア人男性のコンスタンティンは、クラシック音楽に一般人の興味をもっと向かせる為の作戦アイディアが色々在る。その一つがリアリティー番組。ピアノフェストと言う、14人の若いピアニストを密集させた空間にカメラとカメラマンを持ち込んで、これからピアノフェストが終わるまで張り込んで、ドキュメンタリー映画を作るのだそうだ。彼は良くしゃべる。いかにクラシック業界がこのままでは滅びてしまうか、クラシック音楽家としてこの業界を活性化するために私たちが今するべきことは何か、その独白を逃げられずに聞いていたら1時間半もしゃべり続けていた。制作後はこのドキュメンタリーはとりあえずYoutubeに載せられるそうだ。そして色々なテレビ局に持ち込まれ、上手く行けば来年からピアノフェストの日常を撮ったリアリティー番組が放映されることになるそう。 このコンスタンティンを含むピアノフェストの大半のピアニストと海岸に行った。今日は波が荒くなく、簡単にかなり沖まですいすい気持ちよく泳いでいける。天気も最高。泳ぎ疲れたらみんなで砂浜でゲームだ。この頃ほぼ毎日海岸に行っている。波が荒いときは波に転がされて水着の中が砂だらけになってしまったが、夜の海岸は星空が信じられないほど深くまで見えるし、今日の様に波が穏やかな時は本当に楽に泳げるので楽しい。そして子供の様にキャーキャーはしゃいでゲームをしていると、他の事を全て忘れてしまう。

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私が執筆した記事の載った雑誌が発売になりました。

「エルネオス」と言う月刊誌の「在米日本人のニッポン考」と言う連載が100回を超えるコラムに執筆を頼まれたのは、ロサンジェルスでのチャリティー演奏会が盛況のうちに終わって直後のその会場にてのことです。6月10日に締め切り、ということで6月9日に成田発NY着の予定だった私は、成田空港で出発待ちの時から書き始め、飛行機の中で書きついで、NYで時差で眠れぬ中校正を重ね、提出しました。6月7日に訪れた仙台郊外の岩沼市や、亘理市、磯浜漁港、そして福島県の山本町などで見た光景のこと、そして在外日本人として自分に、そして自分の属する日本人・日系人コミュニティーに今何ができるか、問いかける記事を書きました。 訪れたのはもう早3週間前になりますが、それでもその時すでに地震・そして津波から有に3ヶ月は経っていました。それでも住民がまたそこで元の生活を始められる様になるのは、遠い将来であるように見受けられました。それなのに、海外ではともかく、日本国内でさえも風化がすでに始まっている様に思えます。海外に居て、私が出来ることはまず、風化を防ぐこと、そしてこれから長期感にわたっての支援の必要性と、その理解を求めることだと思います。 ピアノフェストが終わってからNYに一ヶ月ほど滞在します。その期間に友達とまたチャリティーコンサートをやる話があがっています。日赤の義捐金の配布は少しずつ行われているそうです。やはり知名度、組織度、そして歴史においてはずば抜けているNPOですし、外貨で寄付する場合、一番簡単なのが日赤であるようにも見受けられます。今、日赤に対する猜疑心が浸透しているようですが、他に海外から簡単に寄付できる良心的な大規模NPOをご存知の方は、ご一報いただけますでしょうか? 「エルネオス」の発売情報です。 『発売は7月1日(日本時間)です。対象の限られた年間購読誌なので全国の書店で購入できるわけではありません。東京の場合だと丸善の丸の内店、日本橋店、八重洲ブックセンター、ジュンク堂池袋店、リブロの青山店,池袋店、江坂店など十数店舗だけです。なお月初、すなわち今回の場合、7月1日の日経新聞1面下で発売広告が出ます。』

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飛び入り演奏

pianofestでは色々なことがとても簡単と言うか、気楽である。 「明日は水曜日なので、恒例のコンサートがあります。演奏したい人は~?ああ、君のベートーヴェンの3、4楽章は10分くらいだね。それから君のバッハはとても良かった。何分くらい?あと、ロマン派が欲しいね。。。あなたのラフマニノフは何分?。。。」と言った感じで演奏会の前夜、夕食の会話で次の日のプログラムが決まる。 昨日の水曜日の演奏会では私のルームメートが二人と、後数名弾くことになっていた。正午のコンサートで10時ごろ会場に向かって出発と言うことで、私は二人に付き合って早起きして練習に向かった物の、本番が無いからリラックスしてゆったりと朝食をとり、さあ、そろそろ練習を始めようかな、と9時半ごろピアノに向かったとたん、がたん!とドアが開いた。 「今日の演奏会に出るとしたら、何と何が弾ける?13分くらいの穴を埋めなきゃいけないんだ」 。。。なんと、出場予定のピアニストの一人が手首に怪我をしたのである。 「えっと~、シューベルトの即興曲とか、モーツァルトの幻想曲とか。。。」 「完璧!出て!」 「でも、ドレスが。。。靴が。。。」 「今すぐお家に帰って取ってきて!」 「ギャ~~~!!」 と、言うことでぜんぜん練習しないまま、十八番ではあるがここ何ヶ月、いや、もしかすると何年もさらっていない曲を人前で披露する羽目に。。。 会場はBrookhaven Laboratoryと言うなんだか原子力研究所で国の最高秘密の研究所に在る講義用のホールである。やけに警備が厳しく、免許証の提示などが要求される。古いスタインウェイのフルコンがステージに在って、お客さんは研究を休んで和みに来た科学者が主な感じだが、中には身分証明書提示の厳しい審査にもめげずに、ドライヴしてきてくれた一般聴衆も居る。私は、日本の福島原発に関する彼らの意見を聞けるかも知れない、と意気込んでいたのだが、自分の研究の話はあまり出来ないらしいし、第一、あんまり演奏後に聴衆に挨拶すると言う、雰囲気ではなかった。演奏はまあ、状況を考えれば上々。喜んでもらえてよかったが、突然の事でびっくりした。

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