July 2011

緊張と緩和のバランス。

テキサス州のヒューストン(NASAがある所です)にあるライス大学の博士課程に在籍して1年になる。 その前はロサンジェルスのコルバーンと言う音楽学校に4年在籍した。 と、言うわけでNYを離れてすでに5年が経過しているのだが、NYはやっぱり私のホームである。 その一つには、16の時に家族が日本に帰国してから私のホスト・ファミリーとなってくれた アメリカ人老夫婦が、今でもマンハッタン郊外に私のピアノと私の部屋をそのままにしておいてくれ、 いつでも本当の子供の様に歓迎してくれるので、休暇や祝日に良くそこに行く、ということがある。 この私のアメリカン・ペアレンツの家に身を寄せている時は、私にとっては緩和の時である。 風呂に雑誌を持ってゆったりつかり、ゆったり練習をし、ゆったり散歩をして、 ゆったり老夫婦と食事を取って、早寝遅起きをする。 しかし、このマンハッタン郊外の家はマンハッタンから電車で40分と言う距離だ。 そしてマンハッタンには私を気軽に泊めてくれる友達が沢山居る。 一度マンハッタンに来ると、今度は旧友や、仕事仲間、先生などと、 食事会や、情報交換、弾きあいっこや、先生にレッスンをして頂いて、 その間に美術館や図書館に行って、今やっている曲、これからやる曲の情報入手や インスピレーションを求めて、今度は大変刺激に満ちた日々を送る。 今、私はマンハッタンでこのブログを書いている。 3日不在にする友達の犬の面倒を見る口実で、彼女の家とピアノを使わせてもらっている。 日曜日の夜から水曜日の夜までで、実に2回のレッスン(Jeffrey Swann,とClaude Frank,各氏)、 1つの演奏会、図書館での用事、そして沢山のお友達や先輩、昔の先生との再会をこなしていて、 本当に楽しい。 さて、今日はクローデ・フランク氏にゴールドベルグを聞いて頂く。 一昨日のジェフリースワンのレッスンの復習をしっかりして、 がんばって練習!

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ゴールドベルグを熟成させる、一人の時間

同じ屋根の下で一ヶ月同じ釜の飯(と言うより、主にパンとパスタ)を食べたピアノフェストの仲間と火曜日に抱き合ってわかれをしのんでから今日で四日目。ひたすら、静かな時間をむさぼっている。外ではウサギがはね、リスがたむろし、鳥が飛び交う、天国のような気候。その中でベランダに座って、ゴールドベルグの色々な録音を聞きまくり、色々な出版社の色々なゴールドベルグの印刷を見比べ、イメージを固め、録音のために解釈を固める。 生演奏では、出たとこ勝負のような、その会場の雰囲気、お客様から受け取る「気」などに自由自在に反応した、その時だけの演奏、というのが出来なければいけないと思う。そういう包容力を残した、準備をする。 でも、録音と言うのはまったく別物だ。これは残るものだし、ある程度確固たる、確信を持った自信を持って録音が出来る、一貫して同じ効果で弾ける、きっちりと筋の通った解釈を決めなければいけない。 がんばっている。

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すごい物を見た!

今日、日課となった海水浴から帰ってきたら、前庭に見慣れぬ茶色い物がうずくまっている。 (ウサギかな)と思って音を立てぬよう、抜き足で近寄って見ると 「グワッ」と頭を上げたそれは、鷹だった。 英語でRed-tailed hawk, 日本語でアカオノスリ、と言う。 くちばしが鉤状になっていて、怖い顔と、強そうな太もも、そして赤茶の尻尾を持っている。 一心不乱に、多分その鷹本人に殺された、すでに死んでいるリスを食べている。 高速のまん前に在るお家の前庭だ。 鷹の後ろを轟音を立てて、乗用車やトラックが通り抜けるのに、鷹はびくともしない。 私たちが段々近寄っていってついに2メートル付近まで接近しても、 こちらを時たまぐっとにらみつけることはあっても、飛び立つそぶりも見せず、リスを食べている。 はじめはひそひそ声だった私たちも段々大胆になり、大声で仲間を呼び寄せて見物。 一人が大きなくしゃみをしても、鷹はびくともしない。 約20分、鷹がリスを食べる様子を見ていた。 骨を「バキ!」「グシャ!」と音を立てて折り、それまでも飲み込もうとする。 一度、大きな骨のかたまりにのどを詰まらせ、何度か屈伸してそれは吐き出したが、 それまでその後のみ下してしまった。 肉はちゃんと租借している。 腸はずるずると引きずり出して、ちゃんとポイッと捨ててしまう。 周りの木には、食べ残しを狙っているのか、はたまたスキを狙って獲物を盗もうというのか、 他の鷹や、色々なトリがギャーギャー鳴いている。 尻尾の毛まで抜き出し始めた。 尻尾の何を食べようというのか―軟骨か? あらかた食べつくしたところで、鷹は残りを全部口にくわえて、 尻尾をひらひら口から垂らしながら、飛んでいってしまった。 それを追って悔しげなほかの鷹などが後をついて飛んでいく。 飛び立った後に残ったのは捨てられた腸と、尻尾の毛だけ。 圧巻だった。すごい物を見た。

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ピアノフェストでの一日

私は朝方人間…のはずだった。 でも、ピアノフェストに来てからは、朝いくらでも眠れてしまう。 相部屋のオルガ(ベルルース出身、私と同じくイーストマン音楽院で博士課程一年目を終了したところ)の目覚ましが7時45分になってから、彼女がシャワーを浴び終えて私の順番になるまでしっかり2度寝をしてしまう。 私がシャワーを浴びている間しっかり30分、オルガは髪を整え、お化粧をする。 私はシャワーを浴び終えたら、服をパッパ、と着て、目をサッサ、と書いて、準備終了である。 ピアノフェストの参加者の一人は朝の化粧のためにルームメートよりも2時間早起きをするそうである。 人生優先順位の違いである。 そのことについてたまに考えるが、私はやはり朝ゆっくり眠れる方が、 眠くない時は、練習する方が良い。 準備完了の段階で同じ家に同じく下宿している中国人の男性ピアニスト二人と、計4人で便乗して オルガの車でピアノフェストの本部へとドライブする。 運転行程15分、歩いて1時間15分。 私は歩くのが好きなので、一人の時間が欲しいときや、天気が特別気持ちいいとき、運動したい時は、 この行程を歩く。 ピアノフェストについたら台所に直行。 たいてい前夜の飲み会の残骸で、台所は悲惨な状況である。 その中から清潔そうな調理器具や食器を掘り出し、 台所に山とある食材からそれぞれ思い思いに好きな朝食を用意する。 オムレツを作る子、パンを焼きもせずにくわえ、練習室に向かう子、コーヒーだけの子。。。 私の最近の定番はオートミールに卵をかき混ぜて作るしょうゆ味の卵粥のようなものである。 台所にもピアノがあって、そこでも誰かがいつも練習している。 人の練習を聞いているのは面白い。 色々な工夫、練習法、そして解釈がある。 台所で練習していると、色々な人が色々な時間におやつや食事や、つまみ食いに来る。 無意識のうちにいつも誰かが練習している曲を一緒にハミングする子、 「え!そこの指使い、教えて!」などと無邪気に話しかけてくる子。 無視している様に見えながら気配で明らかに聞いているのが分かる子。 まったく我関せずの子。 みんなさまざまである。 あまり練習に乗り気でない時は、台所に陣取って、 来る子とおしゃべりしながらその合間にチョコチョコ練習すると 思いがけずはかどったりする。 でも、私は「ピアノフェストは人生の休暇!」と決めているので、 朝一番で練習にがっつくことはせずに準備した朝食を持って、庭を見渡すポーチに行く。 たいていオルガと一緒に色々しゃべりながらゆっくり朝食をとった後、 その日の練習が始まる。 朝方の子や、コンクールに向けて準備中の子は、もうバリバリ練習しているが、 逆に毎晩飲み会の子はまだお見えにならない、そういう時間である。 その後はたいてい夕飯まで思い思いに練習しながら時間を過ごす。 午後はレッスンがあったり、演奏会前の通し稽古があったりする。 昼食を外で食べたり、多くの日はみんなで連れ立って砂浜に向かい、海で波遊びをしたりする。 昨日の海は荒かった。 寄せる波を足を踏ん張ってやり過ごしたと思ったら、返す波に足をすくわれ、 転がされて髪から水着の中まで砂だらけになってしまった。 水着を忘れてズボンで入水した男の子は両ポケットに信じられない量の砂が入り込み それをかきだし、かきだし、苦心していた。 寄せる波と返す波の間の一瞬の海水は信じられないほど透明である。 海底だけでなく、他の色々なものを反映してくれるような、吸い込まれる様な透明だ。 私はふと、東北でみた津波の爪あとを思い出して、非常に複雑な気分になってしまう。 のどと鼻の奥に、海水が苦い。 今日の波は大きかったが勢いが少なく、ゆったりとしていた。 浮いてやり過ごせる波ではないが、 波が来た時、下をくぐる様にもぐって進んでいけば、楽にかなり沖までいける。 足が届かないところまで、波がまだ水しぶきを上げない、うねりの状態の所まで泳ぎ出せば もう波は関係ない。

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「ピアノの時間」エピソード#12が放映されました。

ロサンジェルスの日本語放送チャンネル、NTB(Newfield Television Broadcasting)で私が講師を担当している隔週放送のミニ・シリーズ「ピアノの時間」第12回が放映されました。 今回のテーマは「ゆっくり弾くことの難しさ」。 曲はシューマンの作品15「子供の情景」より「トロイメライ」です。 下のリンクをコピぺして頂いくと、 9分30秒目のところから14分30秒目のところまで私の番組をご覧いただけます。 http://www.soto-ntb.com/piano-time/2011-7-3/ お楽しみ下さい。

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