明鏡日記⑤:鬼滅の刃に観る人間の明暗(ネタバレなし)

4月24日(土)「アルメニアジェノサイド追悼記念日」に「アルメニア人大虐殺はオットマン帝国によるジェノサイドだった」とバイデン政権が認定しました。トルコのエルドアン大統領は「鏡を観ろ。アメリカ原住民はどうなんだ?」と切り返し、撤回を求めています。アメリカ合衆国が長い事ジェノサイド条約への加盟に同意しなかった理由の一つにはこうなる事が分かっていた、という事もあります。民主主義を理想として建国されたアメリカですが、その歴史には理想とは程遠い暗黒面が多々あります。原住民の大虐殺。奴隷制度。第二次世界大戦中の日系人の強制収容。そして現在のBLM運動を引き起こした黒人差別。アジア人ヘイトクライム。1950年にジェノサイド条約加盟が検討された際、アメリカ政府はアリバイ作りのために全米黒人女性協議会の代表に「アメリカで行われている黒人リンチは何人に対して行われようとジェノサイドとは違うものである」と証言させています。

音楽の効用という観点から脳神経科学を勉強すると、人間の協調性とか社会性、共感力など社会的な人間の特質が浮き彫りになります。人には他人の感情や体験を自分の物として共感する習性があります。だから苦しんでいる人を見ると自分も苦しくなってしまう。じゃあ苦しんでいる人を助けよう、とするのが理想的な人間性です。一方、自己防御のために、見ないフリをしたり、相手を自分とは違う人種として共感を断ち切る、という選択肢もあります。更に先手を打って相手を苦しめることで主導権を握るという可能性さえある。人間の残虐性は史実にも日常にも目に余ります。この人間の二極性と、私たちはどう折り合いをつけたら良いのでしょうか?

この人間の矛盾を見事に描いているのが、「鬼滅の刃」の圧倒的な人気の理由ではないでしょうか。先週の金曜日4月23日に「鬼滅の刃:無限列車編(英題:Demon Slayer: Mugen Train)」が全米で劇場公開となりました。緩和されたとは言えコロナの規制がまだ続く中、今週末3日間のみですでに当初の予想二倍に当たる2,000万ドルの売り上げ。外国語映画としては史上最高売り上げとなります。遅ればせながら、野の君と二人でその圧倒的な人気に興味をそそられ、昨晩アニメシリーズ版を観始めたら面白くて一気に第八話まで観てしまいました。人食い鬼に家族を惨殺され、唯一生き残った妹も鬼にされた主人公。鬼たちの殺戮を食い止め、妹を人間に戻す方法を見つけるために鬼滅師になります。自分をも食い殺せる鬼となった妹を見捨てない兄。そして鬼となっても兄を慕い、人食いを自分に許さず、兄と旅を共にする妹。人間の残虐性と向き合い解決法を求める、理想図です。

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ゾンビや吸血鬼と同じく、人食い鬼に成る人間は、不可抗力で鬼にさせられます。鬼の前身は人間。全ての人間は状況次第で、加害者にも被害者にも成り得る。「罪を憎んで人を憎まず」は、美学・道徳というよりは「あなたが罪を犯してもあなたを憎みませんから、私が罪を犯しても許してください」という公約の様なものではないでしょうか?探られても全く腹が痛まないのは、生涯被害者に徹した底辺の人たちだけではないでしょうか?そしてホロコーストの強制収容所の生存者が証言するように最底辺の被害者たちの間でもヒエラルキーは出来、鬼に成る人があり、その犠牲者が出る。

広島平和記念公園にある慰霊碑の「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という言葉を問題視する声がある、という話しを聞いた事があります。責任の所在をもっと明らかにしても良いのではないのか、と。でも、私はこれで良いのだと思います。状況や立場が違えば、私たちが他国に原子爆弾を投下する歴史の運びになっていたかもしれない。将来そうなるかも知れない。誰がなぜ鬼になるかではない。私たちはみんな、鬼に成り得る。だから、みんなで力を合わせて、自分たち一人一人に内蔵する鬼の種を撲滅していきましょう。そうして、世界平均幸福度を少しずつでも高めていきましょう。そういう連帯責任の誓いです。

過ちは繰り返しませぬから - YouTube

3 thoughts on “明鏡日記⑤:鬼滅の刃に観る人間の明暗(ネタバレなし)”

  1. 小川 久男

    お疲れ様です。

    鬼滅の刃、的確な説明有難うございます。
    聞いたことはありますが、内容は知りませんでした。
    いつもながら、平明で明で分かり易い主張に感服しています。

    小川久男

    1. 小川さん

      正直に言うと私も内心(アニメ映画か…)と小ばかにしていたかも知れません。
      でも、脱帽しました。日本人として誇らしいです。
      いつもコメント、ありがとうございます。

      真希子 

  2. Pingback: 明鏡日記㉙:『Fukushima 50』を観ました。 - "Dr. Pianist" 平田真希子 DMA

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