September 2010

理想は目指す物であって、到達する物では無い。

今日のマインド・ボディーのクラスでは、ヒューストン交響楽団で長年ファゴット奏者を務め、 退職した現在はライス大学の教授をしている, Benjamin Kamins氏 がゲストでした。 何だかエキセントリックな人で、ジェスチャーも声の抑揚も非常に大きく、 ウディ―・アランとロビン・ウィリアムズを足して2で割ったようなコメディアンの様な人でしたが、 中々面白い事を沢山言ってくれました。 その一つに「理想は目指す物で在って、到達する物では無い」と言うのが在りました。 理想に到達しよう、と頑張るのはかえって逆効果で在り、 理想に到達したいと言ったおごった考えは今すぐ捨てろ! 理想と言うのは目指す物で在り、そしていつも動き続ける、変化し続ける物で在って、 到達する事はあり得ない。 そのことをしっかりと肝に銘じて、死に物狂いで理想を追求しなさい。 さて、その追求の仕方だが、地道に一歩一歩と言うのが良く声だかに言われるが、 私に言わせるとそれは全然効果なし。 私は振り子をお勧めする。 理想を見つけたら、まず理想より遠くを目指して思いっきり理想の向こうに大げさに外しなさい。 そして理想の向こう側からまた現実に向かってもう少し理想の近くに、 そしてまた理想より先に、とどんどん距離を狭めていく。 この練習法、生き方が一番効果的で、そして人生が楽しく成る。 ほ~、と思いました。

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Da Camera of Houston Young Artist Prorgram

昨日電話が在って、私はDa Camera of Houston と言う音楽事業の「Young Artist Program」の参加者として、選ばれました。Da Cameraはイタリア語で「室内の」と言う意味です。この音楽事業団体は、音楽をコンサート・ホールだけでなく、もっと身近で、親近感を持てる場所で演奏したり、選曲にテーマを持たせたり、音楽以外の芸術と関連性を持たせることで、より深く音楽に親しんでもらおう、と言う意向を持って1987年以来活動している団体です。かなり大きな団体らしく、有名なゲストを沢山呼んでいます。 「Young Artist Program」と言うのは二つの趣旨を持って運営されています。 #1 キャリアを向上する為の演奏経験を次世代の音楽家に積ませながら、いつでもコミュニティー貢献を念頭に演奏活動を積極的にするように、ゲストによる公開レッスンや講義を通じて、指導をする。 #2 年若い次世代の聴衆や、普段余り演奏会になじみの無い階層に、音楽を届ける活動をする ゲストや、正規のDa Cameraのメンバー(ライスの教授、ヒューストン交響楽団のメンバーなど)と共演したり、地域の学校への出張演奏や、時には貧困層地域に在る学校にレッスンをしに行ったりするようです。特に貧困地域での活動は、演奏家に対する支払いは全てDa Cameraが行い、その地域の人には無料の奉仕となります。 Houstonには私は音楽的なコネが余り無く、急に来てしまったので、こう言うプログラムの一員となれる事は光栄なだけでなく、実際これからの演奏活動の為にとてもラッキーでした。嬉しい! 10月5日に説明会があり、これからの演奏活動の内容などが明らかになります。

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thank you

今、私の身近に居る人で一番世界的評価を受けている音楽家、と言えばライス大学の指揮者、Larry Rachleffと、タングルウッドで作曲を演奏・録音する光栄に恵まれた、Augusta Read Thomasです。Larry Rachleff はアメリカの音楽学校オケとしては一位か二位と言う定評のライスのオケの常任指揮者である他、ロードアイランド交響楽団、シカゴ・オペラ交響楽団の常任指揮を兼任し、さらにロサンジェルス交響楽団やクリ―ヴランドと言ったアメリカで一流とされるオケの客員指揮を務めています。Augusta Read Thomasはまだ40代と言う、比較的若い作曲家だがシカゴ交響楽団のComposer-in-Residence(客員作曲家!? 訳し方が分からない)を1997-2006年まで勤め上げピュリツァー賞の候補に挙がった事も在る作曲家です。 この二人に共通する点について昨日ふと思いつき、愕然としました。 慣れないうちはちょっと違和感を感じるほど、二人とも"Thank you"を連発するのです。 Larry Rachleffの"Thank you"はこう言う感じです。 リハーサル中、木管の音程、弦のアーフタクトのタイミング、と細かい指示が連発されます。Larryは本当に細かく、厳しく、そして他の誰よりも総譜を熟知しています。あまりの注意の多さに皆が少し怖気づいた所で、指揮棒がサッと宙に浮きます。皆が緊張して楽器を構えた所で、Larryはいつも「Thank you」と言いながら指揮を始めます。「Thank you」と言われて一瞬皆の肩の力が抜け、空気がなごむのが毎回聞こえてくる感じです。 Augusta Read Thomas(略してART)のメールはいつもメルヘンチックな藤色の大きなフォントで来ます。「ここの楽譜の表記について質問があるのですが。。。」、「次のリハーサルの時間の件ですが。。。」と言う私のどんなメールに対しても、返信は必ず藤色の「Thank you」で始まります。電話をしてもそうです。こちらからかける電話でも、向こうからかかってくる電話でも開口一番、必ず「thank you」なのです。時には何に対して感謝されているのか分からない程です。 Larry の"Thank you"は精神安定剤なのかな、とこの頃思います。もしかしたらLarryは割と簡単に苛立つ人なのかな、でもその苛立ちの中和剤としてユーモアや"thank you"を利用しているのかな、と思うのです。指揮者がオケに対する独裁者である事が許される時代では在りません。また、ストレスを感じながらだと、リラックスをしている時より一般的な能力や仕事の効率が落ちる事が声だかに言われる時代です。Larryは音楽での妥協はしたくないけれど、でも人間関係、そしてリハーサルの過程における潤滑油として「thank you」を利用しているのでは、と思うのです。 ARTはまだ良くわかりません。彼女は禅などの東洋哲学に凝っている様で(小林一茶が好きなそうです。でも英訳)、そういう事と関係が在るのかも。

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演奏=窓

 まだNYに居た頃のお話です。 小さな、親睦会の様な演奏会に呼ばれました。 ダンサーが小さな部屋で皆に囲まれた中で即興で踊る、と言う会だったのですが、 前座でその人のお友達だと言うとても高齢の女性がお話をしました。 その人は第二次世界大戦前、ソプラノ歌手として勉強中だったそうです。 そしてドイツに居たユダヤ人だったので、強制収容所に送還されてしまいました。 座るスペースも無い貨物車にすし詰めにされて何日もゆられてやっと着いた強制収容所の第一夜。 皆、不安と過労と、劣悪な環境に、眠りにつくのに苦労していました。 その時頼まれて、モーツァルトの子守歌を皆の為に歌ったそうです。 そして、皆に「一瞬、ここでは無い、別の場所に行った気持ちになれた、ありがとう」 と感謝されたそうです。 そのお話を強いドイツ訛りの英語でゆっくりタンタンと語ったあと、 もう高齢で音程が定まらない声で、 その時歌ったと言うモーツァルトの子守歌をもう一度歌ってくれました。 もう6年以上も前の思い出ですが、私はこの時の事を今でも良く思い出します。 そして、(演奏家と言うのは窓を提供する事だなあ)と思うのです。 窓の向こうに何を見るかは、受け取り手次第だと思います。 受け取り手のその時の人生状況、感情、などによって必要な物が見えるのだと思います。 それは慰めの窓でも、思い出へ直近する窓でも、あるいは何かのヒントが見えてくる窓でも、 何でも良いのだけれど、 自分の力だけでは見えない物が音楽の力と、演奏家の真意で、見えてくる窓、です。 より良い窓が提供できる演奏家になりたいなあ、と思います。

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演奏会を控えて

ライスの博士課程の必修は色々在りますが、演奏の義務も在ります。 3年間の在校中に5つの演奏をしなければ卒業出来ません。 #1 2つの独奏会 #2 室内楽のコンサート #3 レクチャー・リサイタル(トピックを決め、それについて講義をし、関係ある曲の演奏をする) #4 協奏曲の演奏。 #4以外は、全て休憩をはさむ普通の長さ(約2時間)のプログラムとなります。 私はタングルウッド音楽祭の前、日本で演奏したリサイタル・プログラムで2つの独奏会のうちの一つを最初に片付けよう、と長い事計画していました。そのリサイタルが来週末の土曜日、9月25日の夜8時から、ライス大学のDuncan Hallと言う所で行われます。入場料は無料ですし、とても響きの良い美しいホールですので、知り合いにヒューストン近郊在住で、ご興味がお在りになりそうな方がいらっしゃりましたら、是非ご招待ください。 今回のテーマは「生誕記念の作曲家たち」。1710年、1810年、1910年に生まれた作曲家たち、そして2010年に完成した”Traces"と言う現代曲を並べて、西洋音楽の発展上、100年間と言う時間の単位はどう言う物なのか体験出来るプログラムです。 ライスでは全てのリサイタルに「リサイタル・コミティー」と呼ばれる、教授3人からなる審査委員が付き、合格・不合格の診断をします。そして全てのリサイタルの1~2週間前に「プレビュー」と言う物が行われます。これは、この「リサイタル・コミティー」の前でプログラムを通して弾いて、リサイタルに向けてのコメントをもらうのです。教授がこのサービスの為に金銭的な支払いを受けているかどうか私は知りませんが、これだけでかなりの仕事量なのに、今回のリサイタルの為に作曲の教授、そしてピアノの教授2人が快くこの任務を引き受けてくれ、昨日は土曜日にも関わらず、午後に私のプレビューに参加してくれました。 演奏をするとやはり疲れます。宿題は今日はお休みにして、ジムに行き、ひと汗かいた後、友達とヒューストン交響楽団を聞きに行ってきました。ヒューストンのダウンタウンはとても文化的。劇場、音楽会場、美術館などが並んでいて、建築も面白い物が多いです。ヒューストン交響楽団はハンス・グラフと言う常任指揮者の指揮で昨日はストラヴィンスキーの「ナイティンゲール組曲」と言う初期の作品、ショスタコーヴィッチの交響曲1番、そしてブロンフマンのソロでチャイコフスキーのピアノ交響曲1番が演奏されました。ハンス・グラフの指揮はとても明瞭で、分かりやすく、見ていて勉強になります。ブロンフマンはいつも通り圧巻。ヒューストン交響楽団はたまに金管の音程やアンサンブルの技術的問題が感じられた物の、全体的に熱情的で、とても好感を持ちました。ただしホールは建築70年物だそうで、音響は少しさびしい感じがします。 今シーズンのヒューストン交響楽団の宣伝の目玉は新しいコンサート・マスターです。フランク・ホワングと言う中国出身の若い奏者ですが、私はニューヨーク時代、彼の事をソリストとして知っていました。ナウンバーグと言う大きなファウンデーションのコンクールに一位になったほか、大きなコンクールでいくつも賞をとり、一時期盛大に宣伝されたソリストです。最近、ニューヨーク・フィルハーモニックの主席チェロとか、こういうスターを主席に添える交響楽団が増えて来ていますが、同時にそれはオケの一員となる事で華々しい演奏旅行の生活より、収入や生活の安定を選ぶ音楽家が増えている、と言う時代の傾向の反映でもあります。フランクはヒューストン・交響楽団と11の時にデビューしたゆかりも在り、宣伝効果は抜群ですが、同業者としては「ブルータス、お前もか」と言う感もちょっと在ります。 それにしても木曜日のコンサートに引き続き、ヒューストンの聴衆のマナーには本当に圧倒されました。チャイコフスキーの協奏曲の一楽章は本当に派手で、タングルウッド音楽祭でも一楽章の後に大きな拍手が起こったのに、ここではシーンとしています。そして、3楽章が終わったら待ちかねたように瞬時のスタンディング・オヴェーション!凄くびっくりします。アメリカでは本当に珍しい事です。

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