August 2011

クローデ・フランクの素晴らしさ

クローデ・フランクと言う伝説的なピアニストにモーツァルトの協奏曲KV488を聞いていただきました。 彼はもう87歳と言うご高齢で、奥さんがなくなられた頃から始まった健忘症が進行しており、 心配した娘さんから、刺激のためにも、と行ってレッスンして頂く計らいに成ったのです。 昨日は一緒におやつを頂いてからのレッスンとなりました。 食堂とピアノのある居間は続いています。 おやつを食べ終わって、「それでは始めましょう」と私がピアノの前に移動しても、 彼は食堂のいすに座ったままです。 ヘルパーさんが「ピアノの方に行かないのですか」と促しても、 「ここでいい」と堂々と座っておられます。 私は「?」と思いながら弾き始めました。 すると、その日のレッスンは「大きなホールでどのように自分の音と音楽性を響かせるか」 と言うことだったのです。 ピアノから離れて座られていたわけが分かりました。 「はっきりと自分の音楽性を発音しなさい。こまごま小細工しても、遠くでは失われてしまう!」 「16分音符が続くパッセージでも一つ一つの音に大きな方向性を持たせて。 二音と同じに弾いてはいけない!」 「小さくまとめないで!Don’t be timid!(これはレッスン中繰り返し言われました)」 そしてオーケストラ・パートをたっぷりと歌って下さいます。 彼が歌っているオケ・パートに合わせて ダイニングルームから叫ばれる指示に従いながら弾くと、 不思議と黄金時代のピアニストの様式に似てきます。 あの頃は録音技術が発達しておらず、生演奏を聞くことが主流でした。 しかも今の様に「音響設計」なるものが建築の一部になっておらず、 演奏会場と一口に言っても音響も多様だったはずです。 ラジオ放送にもLP再生にも雑音が混じる時代でした。 そういう時に、空間、聴衆の数などに比例して、 音楽やスピーチの抑揚を大きくすることは必要不可欠だったのでしょう。 昔のラジオのアナウンサーのしゃべり方は今では大げさに聞こえますよね。 ただ、Mr。Frankが私に伝授して下さろうとしたことは、 音楽を分かち合おうと言う姿勢にも繋がる物だと思うのです。 自分のために弾かない、世界のために弾く、と言う姿勢。 何だか素晴らしい体験をした気持ちでした。 リュウマチで痛いらしく、歩くのを嫌う方なのですが、昨日は外までお見送りに来てくださいました。

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CD「”Goldberg”? Variations」のライナーノート

ゴールドベルグの録音と編集が終わった今、残るは中のノートの作成とデザインです。 表紙は、NYで大変お世話になっている画家の大岡和夫さんにお願いしようと思い、 明日からスタジオでモデルをする予定です。 中のノートは今、第一稿を書き上げました。 これから校正が必要となります。 何かお気づきの点があれば、どしどしご指摘下さい! 英語と日本語の二ヶ国語です。 この他にそれぞれの変奏曲のトラック番号と、分数秒数のほか、 その変奏曲の拍子や特徴(カノン、ダンス名、など)を簡単に記した エキセル表が見開き2ページで見れるようになる予定です。 一ページが小さく、6ページ内に収めるので、かなり字数を削らざるを得ませんでした。 “Goldberg”? Variations “Aria with Diverse Variations for Harpsichord with Two Manuals” (1741) became known as “Goldberg Variations” because of the anecdote that appeared in the first biography about J. S. Bach (by J. N. Forkel, 1802): That insomniac Count Keyserling commissioned it for his

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また、NYに行ってきます。

ヒューストンに戻る日まであと二週間無い。 先週末録音を終えたゴールドベルグのアルバムの編集作業、 そしてCDの表や裏のデザイン、中の文章を書くなどの作業をする傍ら、 残り少ない夏休みを今だから出来ること、学校が始まったら出来ないことをやろうとしている。 今日は、とても美しい気候だった。 秋晴れ、と言いたい様な気もち良いカラリと晴れ上がった日。 どんなに忙しくても絶対散歩に行く!と決めていた。 そして明日はいよいよ録音編集のセッションのためにNYCに行く。 その後、昼食を録音技師とイタリア街でイタリア料理を、 そして夕飯をピアノ仲間と私の世界で一番好きなおすし屋さんで食べる。 今年は本当に楽しい夏休みを過ごすことが出来た。

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「ピアノの時間」エピソード#14が放映されました。

ロサンジェルスの日本語テレビ放送チャンネルNTB(Newfield Television Broadcasting)で 私が担当させて頂いている隔週放送のミニシリーズ、「ピアノの時間」エピソード#14が 先週末に放送されました。 今回のテーマは「歴史的に正確な演奏」。 作曲家が意図した物を尊重し、それを復元することに集中するのか、 それとも作曲家が曲を通じて伝えたかったメッセージを重要視し、 歴史と共に変化する美的感覚を念頭に現代の聴衆のために現代風の演奏をするべきなのか、 と言うクラシック演奏家のジレンマについてお話しました。 曲はバッハのゴールドベルグ変奏曲から変奏曲7番を弾きました。 下のURLの10分58秒のところから15分25秒のところまでが「ピアノの時間」です。 ご覧になってみてください。 http://www.soto-ntb.com/program/2011-8-7/

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ゴールドベルグの録音2日目、大成功!

昨日のブログには、あのあと録音するはずだったし、自分にハッパをかけるつもりで前向きな書き方をしたが、実は録音セッションその一は中々困難な物だった。慣れ親しんだはずのスタジオ、スタインウェイのフルコン、そして長年の今では友達の録音技師なのだが、ピアノは最後の録音からずいぶん音色もタッチも変わっており、マイクのポジションも新しい ―スピーカーから聞こえてくるプレイバックの音も予想よりもずいぶん、はっきりとしており、それが硬くも聞こえる。正直、戸惑った。一瞬プロジェクト全体への疑惑に頭がいっぱいになってしまった。 でも、深呼吸をして対応策を練る。 ピアノは最後の録音(「ハンマークラヴィア」のCD)以来、ずいぶん弾きこまれているようだ。鍵盤が軽くなった感じがする。ハンマーが薄く、硬くなっている感じがする。それなら軽いタッチで、優しく、可愛系の着眼から弾いて見よう。「ドイツ」を意識してしっかり弾くのではなく、ゴールドベルグはフランス舞曲に多くの変奏曲が着想を得ていることにより注目し、「おろす」「つかまえる」「重み」と言うのを「浮かせる」「遊ばせる」「軽さ」と変えて見よう。ピアノと格闘するのではなく、ピアノと遊ぼう。 そして昨日のセッションは自分で言うのも何だが、とても上手く行ったと思う。これからプレイバックを聞く作業をするので、まだはっきりとはなんとも言えないが、少なくとも手ごたえははっきりと在った。セッションが終わってホッとした開放感で、世界中の今までお世話になった人みんなにお礼を言いたいような高揚感!道ですれ違う人に全てにこやかに挨拶した。(そしたらなんと珍しいことにナンパされてしまった。そしてそれも嬉しかった―蛇足) とりあえず、ご報告。ありがとうございます!

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