August 2009

タングルウッドでの演奏、その7

7;30  起床、身支度、朝食、キャンパスに移動 9;40  練習、図書館で総譜の勉強、 10;30 オケのリハーサル 11;30 練習、昼食、演奏会に向けて昼寝・瞑想、ウォーム・アップ 3  会場入り、演奏、聴衆との歓談、 5  寮に戻る、夕食、そしてまたキャンパスに戻る 7  練習、ドレス・リハーサル(Singing Sepia) 9  ボストン交響楽団の演奏会後半を聴く(カルミナ・ブラーナ) Festival of Contemporary Music at Tanglewood、二日目。 今日はJudd Greenstein (ジャッド・グリーンスタイン)作曲の、ピアノ独奏曲"Boulez is Alive"を演奏した。 物議をかもしたBoulezの有名なエッセー「Shoenberg is Dead」 をもじった題名を持ったこの曲は 作曲家によるとBoulezのピアノ・ソナタ2番に着想を得ているそうだが、 かなりはっきりと嬰ハ短調で、ジャズっぽく、 Boulezよりもずっと聴きやすい。 初めて聞いた時私は、この曲に当たったことが嬉しかった。 しかし楽譜を見た瞬間、あまりのリズムの複雑さにげんなりした。 難しさは、1を「初見可能」で10を「ほとんど不可能」とすると、まあ8か、8.5位。 リズムを取得さえすれば、弾くのは簡単では無いが、まあ無理でもない。 でも、譜読みがやたらと面倒くさい。 忙しいスケジュールの中で、譜読みが遅遅として進まず、私は時に曲の意義に疑問を感じてしまった。 その上「リズムも、ペダルもなるたけ楽譜の指示に従って下さい」、と言う作曲家からのメールでの要望に 私はかなりすねてしまった。 私の芸術性、自己表現、思考の居場所はどこ? へそを曲げて、わざと作曲家のメールには返信しなかった。 でも、昨日の夜のドレス・リハーサルで作曲家に会って、べた褒めしてもらい、 ついでに私のメールから受け取った印象をすべて打ち消して謝ってもらってから、 私は完全に機嫌が直ってしまった。 今日の演奏は、自分では完全に満足とは言えないけれど、聴衆も作曲家もとても喜んでくれたし、 とりあえず、無事に終わって良かったことにしたいと思う。 もっといろいろ書きたいけれど、明日の朝10時の演奏会でまた弾くので、 今日はもう寝ます。

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Judd Greensteinに会う

9 寮で練習 11;30 キャンパスに移動、リハーサル、コーチング(Singing Sepia) 2 研修生による現代曲フェスティバル演奏会、その1 4    プレヴィン歌曲コーチング 5;30  湖までお散歩 6    寮に戻り、お食事、またキャンパスに戻る 8    明日のドレスリハーサル (Boulez is Alive by Judd Greenstein)  とても疲れているし、明日の演奏会に備えて早く寝たいので、明日沢山書きます。 今日はおぼろ月夜で、とってもきれいでした。 ここのところ、4日ほど快晴で嬉しいです。 今日はちょっと肌寒かったけど、昨日はカスカに汗ばむくらいの陽気だったし。

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読書、「笑いと忘却の書」

9    練習 10    図書館で録音聴く、総譜勉強 11;30 オケのリハーサル 12;30 昼食、寮に戻る 1;30  リハーサル・コーチング(Singing Sepia) 4    読書 5    友達とおしゃべり、夕食 7    リハーサル (”Sallie Chisum Remembers Billy the Kid” by Andre Previn) 7;30  練習 私は、ベッドに入ってから眠りにつくまで何でもいいから活字を読む癖が在る。 読まないと眠れない。 普段は本の虫で、寸暇を惜しんで読んでいるが、 タングルウッドに来てからは時間よりも気持ちの余裕が無くて、 就寝前のわずかな時間だけの限られた読書になっていた。 飲み会の後などは数行で目が閉じてきてしまう。 それでも、最初の数週間でカポーティの「カメレオンの為の音楽」を読破したが、 そのあと読み始めたミラン・クンデラの「笑いと忘却の書」は遅遅として、今までなかなか進まなかった。 それが、この数日で一気に読み進み、もうすぐ終わりそうで、勿体ない。 研修生たちはこの頃皆読書に熱心だ。 読書のイメージとはかなりかけ離れたキャラの人までが、 バスの中や、リハーサルの中休みの時、あるいはキャンパスのベンチに座って、本を読んでる。 皆、このスケジュール、プレッシャー、環境、そして毎日顔を合わせる同僚に 愛着も感じるが、同時に疲れて来てもいる。 そして逃げ場所が無いから、観念的に読書で、頭の中だけでも別のスペースに行こうとするのか。 特に、明日から4日に渡って始まる現代曲フェスティバルの準備のプロセスは かなり忍耐と、根性を要するものだ。 あまりに抽象的で、めくらめっぽう次の音を追うだけしかないような曲もある。 作曲家の要求があまりにも楽器の性質に合っていず、弾くのが不可能なような曲もある。 それを非常に限られた時間で、なんとかコンサートまで仕上げなければいけない。 ほぼ毎日あるリハーサルとコーチングでは、同僚、指揮者、そして作曲家から色々注文をつけられる。 演奏家の選択、人格、芸術性の余地がどんどん狭まってくる。 現代曲が大好きだ、と言う研修生もいるが、選曲の自由がここでは演奏家には無い。 その上に、こう弾け、こう考えろ、ここで息をしろ、ここで腕を動かせ、と やたらと色々な人からやたらと色々なアドヴァイスを受ける。 色々な疑問、不満をこらえて、演奏会でベストを尽くすべく、みんな頑張っている。 そして本の中の世界が救いとなる。 クンデラは、ずっと昔に「存在の耐えがたき軽さ」を読んで、すごく好きだったが、 この本も似た意味でとても共感する。 一応小説なのだが、登場人物のドラマを使って、 ちょっとずつ世界を、人間性を、言葉の意味を、解明していく。 日常的なヒューマン・ドラマが突然、非常に一般的な哲学に結び付いていく。 お腹がすいている人がおにぎりを食べるように、一言、一言に感激してしまう。 皆で「これもいつか、楽しく思い出すエピソードになるよ。」と言いあって励まし合っている。 現代曲の作曲家は独創的であることを、とても強く追及する。 でも、常識が無いところで音楽を創ろうとするから、 演奏家との間に何も共通に理解する物が無い。 作曲家はその新しい音楽観を提示する側だから良いかも知れないが、 演奏家はその新しい音楽観を受け取って、取得して、聴衆に提示しなければいけない。 作曲家に提示された音楽観に同調できない場合、演奏家はどうすればいいのか。 問題は、今の世の中作曲家が演奏せず、演奏家が作曲しない、と言うことに在る。 と言うことで、私はここで宣言するが、作曲をすることにします。

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音楽活動を支援する人たち

9    練習 10   オケのリハーサル 11;30 練習 12;30 ヴォランティアによる研修生の為の昼食会 1    寮に戻り昼寝、ちょっと読書、またキャンパスに戻る 4    ストラウスの歌曲のクラス 6    寮に戻る、夕食 7    アンドレ・プレヴィンの歌、リハーサル 8    練習 ちょっと疲れ気味。 昨日のブログを書いたあとで、何となく自分がこの頃不必要に批判的になっているようで悲しくなった。 何しろここに来て、ほぼ毎日演奏会に参加するか、演奏会を聴くかしている。 時には日に二度、演奏会を聴く日もある。 その上にレッスン、リハーサル、講義、そして自分の練習。 段々食傷気味になってきているのかも。 贅沢な話ではあるが。 皆そうだけど、そして周りが疲れているから余計自分の疲れを意識することもあるのだけれど、 今日はついに昼寝をしてしまった。 そういうときに、今日のランチは嬉しかった。 普段、研修生は寮で朝ごはんが8時から9時まで、夕飯が5;30から7時まで食べられる。 でも、昼は出ないし、夕飯もリハーサルが立て込むと、時間内に寮に帰ってくるのが不可能な日もある。 そういう日は、朝頼めば、寮の食堂のおばさんがサンドウィッチを作ってキャンパスまで届けてくれる。 でも、アメリカのお弁当にしてはましな方だけど、 レタスとトマトとハム(又は菜食者用に、豆腐の薄切りにペスト・ソースを塗ったもの)のサンドウィッチ それからポテトチップスと、リンゴかオレンジと、リンゴジュースのお弁当である。 メニューの変化は無い。 私は実は日曜、月曜とつづけてその「お弁当」だった。 そしてお昼は食べている時間が無いし、買うお金ももったいない。 朝食の時(本当はいけないのだけど)食パンを紙ナプキンに包んで持ち出してお昼に食べたり、 お菓子や、粉末スープ、同じく持ち出したフルーツを食べたりしている。 そういう食事が続くと、やっぱり悲しくなってくる。 でも、毎週水曜日はヴォランティアの人達が、そういう研修生たちの為に昼食会を開いてくれる。 それぞれのヴォランティアが10人掛け位のテーブルを受け持って、 おうちで作ってきたお食事でおもてなしをしてくれる。 それぞれのテーブルでメニューが違う。 今日はロースト・ビーフと、グリーン・サラダとポテト・サラダ、 それからトマトとマッツォレラ・チーズにボルザミコ酢をかけたものをごちそうになった。 このテーブル受け持ちの人は91年に近くに越してきて以来ずっとタングルウッドに関わってきたけど、 5年前にいとこが研修生で参加したのをきっかけに、このランチのヴォランティアの参加を始めたそうだ。 他にも、ただ単に音楽家とおしゃべりしたい人たちとか、 それから自分の子供が昔研修生で、今はどこかでオケ奏者として働いている、と言う人や、 色々な人が色々なきっかけでこういうヴォランティアを始める。 私たちはみんな忙しいから、時にはご飯をかきこんで「ごめんなさい、リハーサルがあって。。。」 と言って立ち去る「食い逃げ」の様なことをしなければいけない時もある。 でも、みんな「分かっている、気にしなくていいから」と言いながら、 にこやかに、さりげなくごちそうしてくれる。 中にはそういう研修生用に、デザートを包んで持っていけるように、用意していてくれる人もいる。 一昨日、ボストン交響楽団の演奏会の休憩中、後ろに座った人たちの会話が聞こえてきた。 知らない人同志の、通りすがりの会話だったけど, 若い女の人の声が 「自分はミュージカル女優を目指して、そういう大学を卒業したけれど、今は普通の企業勤め。 そして今の夢は、いつかここの研修生を一人スポンサーするだけの貯金をすること」 と言っていた。 そういう芸術活動、夢の持ち方もあるんだなあ、と思って、感動した。

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音楽の役割

「自分にとって良い曲とは、新しい聴き方を提示してくれる音楽だ。」 -Steven Drury 10   リハーサル・コーチング(Singing Sepia)  12;30 Steven Druryと昼食 1;30  練習 2;30  Steven Drury コーチング、(ベルグのソナタ) 4    オーケストラのリハーサル("Drala" by Peter Lieberson) 6 寮に移動、夕食 7;30  マーク・モーリス舞踏団のドレス・リハーサル見学 マーク・モーリスは元舞踏家、今は振付家で、彼の舞踏団はアメリカではかなり有名だ。 音楽にとても詳しく、オペラの演出を手掛けたりもしている。 自分の舞踏団では、リハーサルから公演を通じて、録音に合わせて踊ることを主義的に禁止していて、 そのせいで時間もお金も余計にかかるが、 そのおかげで私の知人の数人はマーク・モーリス舞踏団と共演したことが在る。 音楽の演奏がその日の天気、演奏家の気分、会場の雰囲気などに影響されて変化するように ダンスもそれを反映して、自在に変化するべきだ、と言う考えからの生演奏である。 かなり著名な音楽家もこの舞踏団と定期的に共演していて、 今日演奏したヨーヨー・マや、エマニュエル・アックスも頻繁に参加するらしい。 今日のプログラムは研修生によるハイドンのホルン協奏曲ニ長調、 ヨーヨー・マとアックス氏によるベートーヴェンのソナタハ長調、 研修生によるストラヴィンスキーの「Serenade」(ピアノ・ソロ) ヨーヨーとアックス氏と未知のヴァイオリニストによるアイヴスの三重奏だった。 振り付けは非常に面白かった。 幾何学的な模様のように何人もの腕や脚が舞台の上に模様をなして、 それが音楽にぴったりと合わせて万華鏡の様に七変化する。 音楽を本当に視覚化している感じで、たとえばカノンなら、 同じ振り付けを声部の導入に合わせて、ずらして何人ものダンサーが踊るとか、 協奏曲はホルンに合わせて踊る人、オケの中のあるテーマだけを踊る人、とか 例えば音楽理論を全く知らない人でも、一目でソナタの構造がわかるような そんな振り付けだった。 ヨーヨー・マとアックス氏はどうして舞踏団と共演する選択をするのかなあ。 振り付けの都合で、音楽的解釈を妥協しなければいけないところが在る。 例えば、ベートーヴェンのハ長調のソナタは、私はこのデュオがロスで演奏するのを聴いたが、 今日のテンポは振り付けに合わせて、普通の解釈よりも、彼らのロスのテンポよりも かなり遅いテンポになっていた。 後の講義で「こういう解釈もできるかも、と挑戦されるのが面白い」とマ氏が言っていたが。。。 始めは音楽が視覚的に体現されていく目新しさが楽しくて、息を呑んで見ていたが、 段々(これはマーク・モーリスの音楽の解釈を見ているのであって、 音楽そのものを解釈と切り離して体験するのはこの方法では難しい) と思わざるを得なくなってきた。 しかし、演奏だって、演奏家の解釈と音楽そのものを切り離すのは難しい。 それでも、ベートーヴェンは私はよく知っている曲だから、 例えば普通のテンポより遅い、とか、かなりのところが分かったが、 アイヴスやストラヴィンスキーに至っては初めて聞く曲なので、 マーク・モーリスの提示する世界を鵜呑みにするしかない。 それはそれで、ただ単に音楽を聞くより、ガイドが在ってわかりやすく、楽しめはするのだが、 しかし良く知らない曲だけに、視覚に気が囚われて、せっかくの尊敬する演奏家の演奏でさえ 気がつくとダンスの二の次になってしまう。

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