July 2009

聴く修行、夜はSavall

今日は、久し振りに一日中練習をした。 朝ごはんを食べてから夕飯まで、息抜き以外はぶっ通しで練習したのだ。 贅沢な気分だった。 タングルウッドで演奏予定の曲を一通り見た後に、自分のソロの曲も久しぶりに触った。 ここに来てから、「聴く」と言うことの深さを教わっているなあ、と思う。 メンデルスゾーンのトリオのコーチングから始まって、 私には未開の域だった声楽家たちとの、ここに来てから毎日の様にある共演、 そして毎晩聴く、素晴らしいアーティストによるコンサートに行くことで、 今まで自分がいかに聞けていなかったか、と言うことを思い知らされる。 ちょっと聞いて「次はこう来るだろう」と勝手に予測をつけて、 実際の音を聴いていない、と言うことが私にはよくある。 他の人の演奏はもちろん、共演者の演奏、そして自分自身の練習・演奏する音、 さらにはこれは会話にも当てはまることだと思う。 ちゃんと、聴こう。 一瞬、一瞬、空気の振動が私の鼓膜に伝わって、自分の脳に「音」として認識される 奇跡のプロセスをしっかり受け止めて音楽を創ろう。 昨晩に続き、今日もJordi Savall率いる、Le Concert des Nationsによる演奏会があった。 今日のプログラムは、シェークスピアの台本に出てくる「音楽」のキュー用に作曲された曲たち。 映画「アマデウス」で、サリエリを演じてアキャデミー・アワードを受賞した、 Murray Abrhamが曲の間にシェークスピアの「真夏の夜の夢」、「マクベス」などから朗読した。 趣向は面白かったが、音楽も演奏も私は昨日の方が好きだった。 音楽会で、朗読や、ダンスや、映像などを取り上げると、 どうしても音楽の効果が色あせてしまう様の気がする。 特に今日の場合、シェークスピアの時代のイギリスの作曲家、と言うことで Robert Johnson, Matthew Locke, そしてHenry Purcellの曲が並べられたのだが、 もともと音楽の国としてはどうしてもドイツ、フランスと、イタリアに 遅れてしまうイギリスというお国柄のせいか、 それとも昨日の演奏会があまりに凄過ぎて、期待しすぎたのか、 私には全部似て聞こえてしまった。 と言うことで、後半は舞台の後ろの席で、指揮をしているSavallをまっ正面に見る席に座った。 ここだと音響は良くないが、いろいろな古楽器がすぐそこに見えるし、 Savallの指揮も、演奏家たちの表情も、コミュニケーションも良く見える。 視点が変わると、また色々な発見があって面白かった。 Savallは、笑顔がとても優しいし、実に頻繁に微笑む(演奏中も)。 それから、打楽器奏者のタンバリンのテクニックがすごくてびっくりした。 ハープシコード奏者は、弦楽器がとても体を入れ込んで演奏するのに比べて、 タイプライターでタイプをしているように演奏していた。 後ろから見ていたら弾いてるか、休んでるか、分からないくらい。 そういう役割の楽器なのかも。

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古楽器アンサンブル, Le Concert des Nations(Jordi Savall)

毎晩、演奏会に行っている。 今日、オザワホールで着席して (なんだか久し振りな気がするなあ)と思った自分を発見して 一人で苦笑いしてしまった。 昨日だけじゃん、最近演奏会フリーだった日は。 今日のコンサートは度肝を抜かれた。 Jordi Savallと言う人を、私は今まで聞いたことがなかったのだが ルームメート(作曲家、ハープシコード奏者)が「Savallが来る!」と狂喜しているので、 (そうか、凄い人なんだ、逃しちゃいけないな)と思って行った、今日の演奏会である。 この人は今日のLe Concert Des Nationsと言うアンサンブル以外にも、 もう二つ古楽器アンサンブルのリーダーをしているらしい。 本人は、ヴィオラ・ダ・ガンバの奏者で、必要に応じて、指揮もする。 このアンサンブルは弦楽器一通りに、ルート、ハープシコードと打楽器の 全部で11人のグループだった。 何しろ、音がまずきれい。 耳新しいせいもあるかも知れないが、完璧な音程でハモル弦というのは、 もうそれだけで別世界に連れて行かれる。 それから、曲目がとっても、とっても面白かった。 Lully Suite from "Le Bourgeois Gentilhomme" (1670) Biber Battalia a 10 (1673) Corelli Concerto IV in D Major (1712) Avison Concerto IX in 7 parts, done from the Harpsichord Lessons by D. Scarlatti

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演奏家と、食べ物&お酒

今日は、タングルウッド7週間中に三日間だけある完全休日の二日目でした。 (休日第一日は6月の30日でした) 数えてみたら、あとまだ5週間近くあるタングルウッド、 それなのにこの2日目の休日が皆、もう何日も待ち遠しくて堪らず これからどうなるのかな~、これからが本当に忙しいんだけど、と言う感じです。 昨日の夜は、休日前夜祭、と言うことでいたるところで飲み会があり、午前まで盛り上がりました。 私も2時位まで飲んでいました。 音楽家と言うのは一般的に健啖家で、美食好み、そしてお酒好きの人が多いです。 でもこれには少し、理由もあると思います。 演奏会と言うのは大体、普通の人のお仕事の後~就寝前に行われます。 私たちはその時に自分の体調が一番良いように調節しますから、 その前にご飯は食べませんし、朝は遅く、お昼寝をしたりすることもあります。 そして、演奏した後、と言うのは一種のナチュラル・ハイになっていて、 脳みそはまだフル回転しているし、気持ちも高揚していて、 そのままおうちに帰っても絶対に眠れない(少なくとも私は)。 あまりに疲れている時はそれでもバタンキューの時もありますが、 そういうときは必ず非常識な早朝に目が覚めてしまいます。 自分が演奏した曲が頭を離れずに、その夜の演奏のことをよく夢に見ます。 だから、お酒と、和やかなお食事が、ありがたいのです。 私はお酒に弱いので、それでも摂取量は少ないのですが、 凄い人はそのために出演料が。。。みたいな人もいます。 食事にも、凝る人が多いです。 ここのカフェテリアは素晴らしく、 いつも朝ごはんにはブルーベリーや、他のフルーツがどんぶりで食べられますし、 ワッフル、オムレツ、フレンチ・トースト、ヨーグルト、オートミールに各種シリアルと、 これ以上望めないバラエティーです。 夜ごはんも魚と肉、そして菜食のメイン・コースが必ず毎晩選択できます。 ちなみに今日の肉は子羊、魚はタラのソテー、菜食はパスタのクリームソース和えでした。 私の在籍するコルバーンのカフェテリアも、ここには劣りますが、 学校の賄い食としてはまず文句のつけようがないと思い(何しろ無料だし)、私は満足しています。 でも、私の友人の(19歳ですでに大学院を卒業してコルバーンに来た、ちょっと天才)のジョンは、 本気で涙を浮かべてカフェテリアの食事に抗議をし、それを理由に学校を去って行ってしまいました。 今は、他の学校で博士課程の勉強をしています。 そして、たまに一緒に食事をすると、本当に嬉しそうに 「う~ん、やっぱり美味しいものを食べると、触発されるよね。 美味しいものを食べることは、本当に大切だと思う」 と、言います。 私はそこまではこだわりませんが、それでもやっぱり美味しいものを食べることは大好きです。 今日はみんなで近くの中華料理屋さんでおひるを食べました。 ちゃんとしたアジア料理は久しぶりで、ご飯がおいしかった! 醤油味にも、ラー油にも、中国茶にも、感激しました。

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練習

8時 起床、身支度、朝食 9時 練習 12時半 キャンパスに移動、友達とピザ、練習 3時半  ボストン交響楽団のドヴォルジャーク交響曲8番を聴く(ブロムステッド指揮) 4時半  友達と湖に行き、お散歩、水遊び 6時 夕食、練習 7時半 レヴァインの声楽公開レッスン見学 10時半 声楽家とピアニストの「公開レッスン、お疲れパーティー」 1時半 帰宅 タングルウッドでのビッグ・イベントの一つに8月の7日、8日、9日に行われる 現代曲フェスティバルがあります。 作曲家、批評家、音楽学者など、いろいろな人たちに注目される、大事なイベントです。 そこで私は、アンサンブルや、オーケストラ・ピアノに交えて、 一曲ソロの曲を弾きます。 ジャッド・グリーンスタインと言う、NY在住の若めの作曲家の"Boulez is Alive"と言う 約8分の曲ですが、今、汗をかきながらこの曲を練習しています。 最終的には即興ジャズの様に聞こえる、きれいな曲なのですが、 書法が非常に複雑で、特にリズムが大変なのです。 一拍の中に5つの音を右手で入れて、7つの音を左手に入れて、 次の拍では右手が9つの音、左手が4つ、 そして次の小節では、拍そのものの単位が変わる、と言う様な事が延々と続く曲。 もう腹をくくって、一拍ずつメトロノームと共にまず正確に何度も弾いて、 音の感覚を覚えてから、右左を合わせ、そして次の拍に移ると言う作業を  地道に積み重ねるしか、私には思いつきません。 私は苦肉の策でそれぞれの拍の中に入れなければいけない音の数に合わせて 言葉をつけて、メトロノームと共に 「ひさかたの(5)、ひかりのどけき(7)、ひかりのどけき、まーきーこー(3)、まきこひらた(6)。。。」 と、大声で発音しながら練習しています。 そういう練習を何時間も続けていると、本当に疲れて会話もまともにできなくなります。 今日は、ボストン交響楽団の演奏会が在って、やっとの思いで後半に間に合いましたが、 せっかくボランティアの人のおかげでまたもや最高の席をゲットできたのに ちゃんと聞けるかしら、と心配になるほどでした。 もうしょうがない、寝てもいい、と割り切って、 まるで目玉が熱をもったようになっている目をつむって聞き始めました。 私は演奏を聴くときは、指揮者とか演奏家を凝視してしまう癖があるので、 目をつむって演奏を聴くのは初めてだったのですが、 とても気持ち良かった。 視覚から入ってくる情報が無くなって初めて聞こえてくるものも在るんだなあ、 と、遅ればせながら発見し、すっかり疲れがいやされた気持で楽しみました。

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マイスタージンガー(レヴァイン指揮)

今日のビッグ・イベントは二つ在って、 一つは研究生の学費を寄付してくれるスポンサーたちと研究生の昼食会、 もう一つは夜、研究生たちのオーケストラとボストン交響楽団付きのコーラス、 そして世界的に有名なソロの歌手たちによる、 マイスタージンガー3幕目(コンサート・バージョン)の演奏会があったことです。 昼食会は、芝生の上に建てられた巨大なテントの中で行われました。 研究生たちの2か月の滞在費、教授費、などでかかるお金は大体一人、2万ドルだそうです。 研究生たちの出演する演奏会のティケットの売り上げなども、 タングルウッドの運営にもちろん当てられますが、 それだけでは足りず、個人や財団、企業などが寄付をしてこの音楽祭の運営を可能にしています。 寄付は、生徒一人をスポンサーする、と言う形で行われ、 それぞれの生徒には「あなたのあしながおじさんは、何々ご夫妻ですよ」 とか、「何々財団ですよ」とか知らされて、 礼状を書くことが義務付けられます。 そして、スポンサーの中で出席できる人は今日の昼食会に来て、 自分のお金が誰の為の、どういう投資になっているか、確認することができるわけです。 私のスポンサーはフロリダ州在住で、今日の昼食会は欠席でしたが、 私の友達のソプラノのスポンサーが、 なんと私が数年前サロン・コンサートをさせていただいた豪邸の持ち主で、 思わぬ再開にお互いびっくり、そしてまた是非、と招待されました。 こういうお金持ちと芸術の関係、と言うのはずっと昔からのことですし、 私はこう言う会とか、対面とかには慣れているので、 (美味しい昼食が食べれて嬉しい)位にしか思いませんでしたが、 他の、特にもっと若い研究生たちには緊張する場面だったようです。 そして、ある厳しい現実を見せつけられて、いろいろ考えるきっかけになったようです。 先週メンデルスゾーンの三重奏を一緒に演奏したヴァイオリニストは、 とっても才能があると思うし、人間的にもずいぶん熟していると思うけど、 まだ20歳で、こういうことは経験がなかったようで、 「お金持ちを喜ばせなければキャリアが上手く行かないような、 そんなのが現実だったら、音楽を愛する気持ちを最終的に汚されるんでは、と心配」 と、なんだかびっくりするほど一生懸命あとで話しかけてきました。 こう言うとき、私は後輩たちに、なんと言えば良いのでしょう。 「とりあえず、学校にいる間はそういう現実からは守られているわけだし、 君はきっと素晴らしい先生になるから、そしたら教授職をゲットして、 ずっと学校にいることになるかも知れないし・・・」 などと、言ったのですが、それで良かったのでしょうか。 悩みます。 夜の演奏会は素晴らしかった。 一幕だけでも2時間半もかかるのですが、 皆集中途切れることなく、歌手に合わせて自由自在に音楽が創り上げられていきました。 単純明快のストーリー展開と音楽で、オケの研究生と共に気分が高揚して、 結局終演は11時を回ったのですが、お客さんも立ちっぱなしで拍手がずっと止みませんでした。 でも、レヴァインはユダヤ人なのですが、ワーグナーをやることに抵抗ないのでしょうか? マイスタージンガーの3幕目の最後にも、フィナーレで 「こうして歌い続けて、世界で最優秀なドイツ文化を純粋に保ち、永遠に残そう!」 みたいな歌詞があります。 ワーグナーはナチスがプロパギャンダに使ったと言う過去や、 ワーグナー自身もユダヤ人を差別するような人だったことなどから、 また今あげた例の様に、排他的にドイツ賛歌みたいな要素があることから、 イスラエルでは上演禁止になっています。 イスラエル人のバレンボエムは中近東とイスラエルの子供たちを混ぜたオーケストラを作り、 それを自ら指揮して世界ツアーをするなど、 政治的な活動を意欲的に行っている指揮者・ピアニストですが、 数年前に、イスラエルで振った演奏会のアンコールに トリスタンの序曲を演奏して、大変な物議をかもしました。

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